京大生、人に会う

現役京大生がいろいろな人に会って、そのインタビュー記事を載せるブログです。

No.2:ブルガリア民族舞踊のダンサー③~【ブルガリアで面白かったこと】【舞踊団への就職活動】【これまでを振り返って】~

 

ブルガリアで面白かったこと】

――ブルガリア人って、どんな感じですか?

 

M:些細なことだけど、ブルガリアの人は人助けに一生懸命にならない。できる範囲で力を尽くしてくれるし、できないことはやらない。すごく自然で、いいことだなって感じる。あと、ブルガリア人はすごくめんどくさがり。暇そうなのに、「忙しい、忙しい」って。

 

――なるほど。国の雰囲気はどんな感じ?

 

M:一言で言うと、発展をやめた途上国? 日本と違って、機械とかは古いまま使われてる。代わりに、一次産品が充実してるね。人が少なくて、土地が余ってるから。

 

――雰囲気が暗いわけではない? 停滞感というか。

 

M:みんな、そういうことは考えてなさそう。目の前に食べるものがあればいいや、って。その割に、「お金ない、お金ない」とは言ってる。だから発展しない途上国。

 

――ヨーグルトはおいしかったですか?

 

M:向こうのヨーグルトはすごく酸っぱい。それに粗悪品が多かった。みんな安いものを欲しがるから。日本って、いいものを安くしようとするけど、ブルガリアでは品質と値段が対応してる。

 

――そっちの方が、当然な気もしますけどね。

 

M:むしろ日本はゆがんでるよね。加工食品の方が安かったりする。

 

――具体的に、おいしいものはありました?

 

M:ルテニツァって瓶詰がおいしい。ピーマンとトマトのペーストなんだけど。これをパンにのっけて食べる。あと、チーズがおいしい。サラダにもりもりかけるの。スイカにもかけるかな。

 

――スイカに⁉

 

M:塩をかけるのに近いと思う。

 

――納得。ところで、ブルガリアという国は近隣諸国とどう違うんでしょうか。僕は東欧の国々をよく知らないので。そういった雰囲気や文化は、ブルガリアに固有なんですか? それとも、より広くその地域に共通している?

 

M:ブルガリア人は西隣のマケドニアブルガリアだと思ってる。北側で接してるルーマニアは何となく、どこか違うかな。南のギリシャだと、もっとゆっくり時間が流れているイメージ。呑気というか。ブルガリアの方がくすんでる。陰があるかも。私はこの陰を悪いとは思わないけど。むしろ落ち着く。あと、ギリシャはユーロを導入しちゃったから物価が高い。ちなみに、中東欧は民族意識が強いよ。

 

――侵略されてばかりだったからでしょうか。

 

M:そうかも。国や文化に興味があることを伝えると喜ばれるんだけど、仲間になろうとすると拒まれる。生まれもDNAも違う人間には無理だぞ、って。みんながみんなじゃないけど。だから今後舞踊団に行ったら、そういう扱いを受けるかもしれないな、とは思ってる。覚悟はしてるけど。

 

【舞踊団への就職活動】

――留学中から舞踊団への就職活動はしてたんですか?

 

M:留学中の5月に、一番好きな舞踊団がダンサー募集してたから、拙いブルガリア語で電話したんだけど、すぐ外国人だとばれて門前払いされた。ここは、国内でも最大級のところだから、要求水準が高いのは知ってたんだけど。だから、もう少し語学が身についてから再挑戦しようって、ずっと募集が出るチャンスを待ってたら、それがなかなか出なくて。そのうちに、帰国することになっちゃった。仕方がないから、日本で就職活動を始めた。大学院の研究にも復帰しなくちゃいけなかったし。

 

――でも、その間も練習してた?

 

M:隙間の時間を頑張って見つけて。体は絶対維持しなくちゃいけないから。あと、舞踊団の募集って、オーディションの2、3週間前に突然かかるから、これもまめに確認してた。それでも就活中は忙しくて、一回見逃したことがあったかな。

 

――ショック! 結局、どこから内定もらったんでしたっけ? 一番でかいとこ?

 

M:三大って言われるところじゃなくて、中堅どころ。これが修士3年の9月。

 

――つい最近ですね。

 

M:その時は、食品メーカーの開発職で就活の方も決まってたんだけどね。その状態で受けに行ったら、OKされて。だから、会社の方の内定は辞退しちゃった

 

――オーディションって何させられるんですか?

 

M:振り付けを考えろとか、斜めに回転しながら進めるかとか。適当に流された曲でリズムを取らされたり。男女ペアで踊らされたり。

 

――結構いろいろさせられるんですね。

 

M:留学中にやっていたことばかりだから、まったく歯が立たないってこともないんだけど。

 

――ところで、そもそも舞踊団って、何を収益源にしてるんでしょうか?

 

M:週に1回お祭りみたいなところで講演してる。あと、市からお金をもらってた。団長さんの一存で万事が決まってたから、公務員とは違うみたいだけど。

 

――ちなみに、お給料は?

 

M:めちゃくちゃ低いよ。3万円くらい

 

――それって、現地だとどのくらいの感覚ですか?

 

M:めちゃくちゃ倹約して、服も買わず、病院にも行かなかった月の生活費がそれくらい。

 

――(‘Д’)

 

M:でも、半日しか仕事がないから、舞踊団の人はみんなアルバイトしてる

 

――定職っていうよりは、夢追い人って感じのお仕事なんだ。ちなみに、それは当たると大きいんですかね。カリスマダンサーとか、国民的ダンサーみたいな人はいるのかな。

 

M:う~ん、分からない。舞踊団によってはソロダンサーがいたから、もしかしたら待遇が違うのかも。でも、フォークダンスって個人で踊るものじゃないから、一人で目立つようなことは少ないかな。

 

――ちなみに、僕は他の方を知らないので勘違いしているのかもしれないんですが、舞踊団のダンサーっていうのは、専業っていうか、それを志している人が多いんですか? それとも、レベルの高い主婦が活躍しているイメージなのかな。

 

M:舞踊団にいる人は、仕事のつもりでしてるかな。

 

――その割に、そのお給料、と。

 

M:それでもやりたい人だけが残っていくな。だから、男性のダンサーだと、家庭を持ったら転職することが多いみたい。

 

――それで、内定がなくなっちゃった経緯って?

 

M:こちらに非がないかというと、難しいところなんだけどね。私としては内定をもらってすぐ現地に行きたかったの。修士なんていらないから。でも、さすがに親に泣きつかれて。それで、どうせビザが出るのに時間もかかるし、一つくらいわがまま聞いてもいいかなって思って、先方に2月まで待つようお願いしたの。修論出したらすぐ行くつもりで。そしたら了承してくれたんだけど、そのあたりから雲行きが怪しくなって。必要書類を整える作業がものすごく複雑で、やり取りしているうちに団長さんがうんざりしちゃったんだろうな。返信期限を指定してメールを送ってもメッセージが返ってこなくて。それで電話したら、「クリスマス休暇だから年明けまで待て」とか。分かる範囲で揃えた書類を送ろうとしたら、いまいち反応が鈍いっていうか、適当な感じで。こっちが業を煮やして住所を聞いたら、ついに断られた。

 

――肩透かしを食らわされた形になるわけですけど、やはりショックでした?

 

M:心はずっと武装してた。だから内定を取り消されたときは、やっぱりかぁ、って思うくらいで。直後は、もう一回就活するのめんどくさいな、くらいだった。でも、4、5日経って、京都でお世話になった方に直接お会いして、報告した時に、自分がすごく大きなものを失ったように感じて。それ以来ずっとテンションが下り坂。

 

――今もまだ下ってる?

 

M:ごまかしてるっていうか。

 

――そんななか恐縮なんですが、これからの見通しっておありですか? それは私が聞きたいわ、って感じかもしれませんが。

 

M:いまはブルガリアに向き合うのがしんどい。心が無、っていうか。でも、また好きになれる気もしてる。だから、今は就職活動をしているけど、その時が来たら他の舞踊団を受けようかな、と。生活費を稼ぐ当ても考えてるし。

 

――逆に、ダンサーになったら死ぬまで続けるくらいの気でいるんですか?

 

M:生活がよっぽど苦しいとかでなければ。ただ、故障は怖い

 

――やっぱり、趣味ではなく仕事として?

 

M:趣味として続けていくのは、むしろしんどい気がする。ダンス留学にしたって、私が切り開いた道な訳じゃない? 私が夢を遂げられなかったとして、それを見た後輩が、私のたどった道を進んでプロになったとしたら、きっとそれを喜べない。昔は本気だったけど、思い半ばで諦めて、今は趣味で後輩を育ててる、そんな人にはなりたくないの。巣立っていく子を見守るよりも、自分が当事者でありたい。だから、趣味で続けていける自信がない

 

――「なれたかもしれない」と言い続ける人生は嫌ですよね。

 

【これまでを振り返って】

――7年間踊ってきて、まさかこんなところにたどり着くとは想像してらっしゃらなかったと思うんですね。もはや、人生とブルガリアとが密接不可分になってる。そうした中で、世界観というか、ものごとの感じ方は変わりましたか?

 

M:日本人である事がどういうことなのか、考えるようになった。それに、私にとってブルガリアは生き甲斐そういうものがあるということを、幸せに思う。失っちゃったけど。

 

――とはいえ、やっぱりすごいですよ。本当に、エネルギッシュですよね。僕にはそういうものがないですから。うらやましいのともちょっと違うんだけど、安心するというか。世の中には、そういう人がきっと必要なはずだ、って。

 

M:負けず嫌いが高じて、ここまで来た感じ。

 

――いっそ、舞踊団作っちゃいます? よりビッグな感じでいいかも。

 

M:え~、でもやっぱり自分が踊っていたいな。

 

――一緒に踊ったらいいんですよ。自分のお金で仲間を集めるの。

 

M:商社にでも入って、バリバリ稼ぐか。

 

――その意気ですよ。

 

M:やってやろうかな。私、憤慨してるもの。

 

――冗談はともかく、なんとか見返してやりたいですよね。

 

M:ほんとうに。これから、頑張らなくちゃ。

 

立ち上がるMさん。彼女のdancing lifeはまだまだ続く

 

<参考> ブルガリア民族舞踊

最後に、Mさんおすすめの踊りを2つ紹介してもらいました。本人による解説付き。

 

https://m.youtube.com/watch?v=FqRnYfjSU7I

ブルガリア中央部、トラキア地方のお祭りの踊り。三大舞踊団の一つであり、私が住んでいたプロブディフにあるアンサンブル“トラキア”が、講演の最後に必ず踊ります。観客にとっても馴染みの一曲で、舞台も客席も凄いエネルギーです。個々のダンサーを見ると、女性の優雅さ、男性のダイナミックさが人それぞれに表現されていて、何回見て も飽きません。ブルガリア滞在中はこの舞踊団の追っかけをしていたので、生で何回も見ました。また見たい!!!!

 

https://m.youtube.com/watch?v=YkxDFAaIKK8

ブルガリア西部、ソフィア周辺のショプ地方の踊りです。一番大きい舞踊団、フィリップ・クテフの十八番です。女性は頭に赤いスカーフを付けたり、ほうきのようなフサフサをかぶって踊ります。踊りはベルトで一列につながり、上下に波をいれて地面を蹴ったり飛んだりする踊りです。隣の人と波を合わせるのが難しいですが、揃った時の気持ちよさは格別です。ソフィアの女性は強いイメージがあります(私目線)が、この踊りの力強さはまさに私のイメージする女性像、という感じがしてとても好きです。また、リズムが特徴的で、前半が5拍子、途中から11拍子というバルカン半島特有のリズムにのせて踊ります。

 

終わり。